arusenpaiの日記

ある、先輩の備忘録兼日記 フィクション

mirai

高度な文明において 健康寿命出生率の完全なコントロールが実現した世界では 天変地異や感染症、ウイルスによる食糧難が続き 充分な食料の調達が危うくなった
人類はそういった食料危機から 大気と電力から食用のタンパク質を作り出すことに成功し克服した
 
もちろんミネラル、脂肪に糖分など生命維持に必要不可欠な成分の全てを生成し 食事において必要なことは全て大気から作り出した食料に ホルモンまでをも添加した
さらにはソレを大気中へ必要な量を放出して還元することにより
人類は呼吸により"食事"としての行為をする「大気食料」を完成させた
 
 
 
それから数世紀の時間が経ち 人類は食事を歴史的文科としてしか残しておらず、咀嚼という行為を古代の猿人類がした消化行為として認識、記憶し 味覚を感じる脳の部位は衰退して その脳の部位は他の能力として補填されていた
 
 
もちろん、顎の筋力はあるが弱く、歯は乳歯が永久歯となり 生え変わることすら無くなっていた
 
口腔は 言葉を発し呼吸をする 表情の表現 噛み締めることでの身体動作性能の調節 などの意味しか持たず 食事については一切の関与をしていなくなっていた
 
そうした人類の中には、味覚を感じることで"美味しい"という趣味を持つ者も在れど、そうした趣味的欲求は味蕾への刺激として微量の電気刺激と仮想食料による嗜好習慣と成り遂げていた
 
 
 
彼は体内時計のアラームにより目覚めると 起床設定された部屋の空気を肺一杯に深呼吸をしてから 空調ダイヤルを調整しベットから起き上がった
 
オレンジ色の主電源ランプに灯す灯りに照らされながら
焦げ茶と緑、薄紫色の混ざったような色をした濁った 寝ぐのついた癖毛を手櫛でときながら手巻きたばこにマッチで火を付けて一服した
 
 
たばこの後 彼の癖であるのか、朝一の深呼での食事を肺八分目で済ませずに 肺六分目で済ませた
絶妙な空腹感と 朝の靄のかかったような眠気を纏いながら 手の甲に埋め込まれた身体デバイスで 今日のヘルスチェックの総合グラフとニュース記事 
日課であり 趣味であるが "何処に育っているかもわからない"多肉植物の様子をチェックしていた
 
彼の多肉植物は所謂 ペットだ
動物を育てることは世界倫理機構により ずっと前から禁止されている 
 
世界倫理機構は生き物を育てること推奨としながら、世界中の絶滅危惧の動植物を管理している
 
この世界では 殆どの人類が 生物を育てることをある一種のステータスとして所持しており
殆どの人間生活をしている人類は愛玩植物を所有している
 
隣人はサボテン 花は図鑑でしかみたことがなく、なかなか咲かないらしい
 
親戚は皆食虫植物や多肉植物
 
そして恋人は百合科…
 
地上で生物を維持することは、大気食料の関係上難しく 専門性を必要とし 倫理機構の管轄である愛玩植物ショップにすら存在しない
 
 
大気食料の関係上難しいとはあるが現実は地上の大気汚染や土壌汚染、気候の乱れにより不毛の地となっており、個人では現実不可能である
 
更には汚染されていない水も希少であり、生活に必要最低限の水は政府から支給されいるが、娯楽目的である愛玩植物への水は多少であっても高価なものであった
 
 
 
世界倫理機構の植物管理アプリケーション上で水やりアラームに従い 水をやり
 
栄養剤の一覧、肥料、土、植木鉢の種類の管理画面からペットの多肉植物へのオススメ肥料を購入するよう促進する通知広告を幾つも消しながらカメラの視点変更を幾つか繰り返しながら観ていた
 
 
「栄養が足りないのかなぁ…」
 
水やりをしていてもなかなかうまくいかず
多肉植物といえど肉厚であるはずの葉は薄く、垂れ下がっている
 
「買ってみるかな、 そしたら大きくなるかもな…」
 
 
しかしながら肥料は高く(一ヶ月分の大気食料と同じくらいである)
そして肥料や土を購入し買って使っても効果があったと言う話を評価を聞いたこともなければみたこともない
 
彼は隣人のサボテンの近況を聞きたくなったが、サボテン種は栄養、土の管理、水やりが余り要らない、寧ろしなくても太く大きく育ちやすいという事を知っていた
 
それもそのはず、隣人のサボテン自慢を顔を合わせる度々聞いているし、サボテンは希少価値が高く
 
彼の多肉植物の数十倍は価格があるのである